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大阪高等裁判所 昭和63年(う)153号 判決 1988年7月26日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役六年及び罰金一〇〇万円に処する。

原審における未決勾留日数中二一〇日を右懲役刑に算入する。

右罰金を完納することができないときは、金五、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人藤沢正弘及び被告人それぞれ作成の各控訴趣意書記載のとおりであるから、これらを引用する。

被告人の控訴趣意及び弁護人の控訴趣意(事実誤認の主張)について

各論旨は、いずれも原判示第四の事実について事実誤認を主張し、要するに、原判決は、その判示第四の事実として、「被告人が、A及びBと共謀の上、営利の目的で、昭和六一年一〇月九日午前七時ころ、名古屋市千種区<住所省略>の右B方及び同人方前付近路上に駐車中の普通乗用自動車内において、合計約五キログラムの覚せい剤結晶粉末を所持した。」旨の事実を認定したが、被告人はAらと本件犯行について共謀をしたことはなく、Aに頼まれて本件覚せい剤の購入資金の一部を貸し付けたにすぎないのであるから、共同正犯ではなく幇助犯であり、しかも、被告人はB方にあった二キログラムの覚せい剤については知っていたが、自動車内に隠されていたその余の三キロ分については知らなかったのであるから、これについてまで責任を問われるいわれはなく、したがって、被告人につき、覚せい剤約五キログラム所持の共同正犯の事実を認定した原判決は、事実を誤認したものであり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。

そこで、所論にかんがみ検討するのに、原判決挙示の関係証拠及び当審における事実取調べの結果によると、

1  被告人は、昭和六一年一月末ころ、屋根葺を業とする有限会社ホーム○○(以下「ホーム○○」という。)を、同年三月ころ日用雑貨品等の販売を業とする××通商を設立して、いずれも自ら代表者なり、かたわら、手形割引、債権の取立てなどをしていたが、××通商設立後、ホーム○○は殆んど営業活動をせず、一方、××通商は設立当初から赤字続きで従業員に対し、給料も満足に支払えない状態でやがて資金繰りに行き詰まり、同年八月末ころには代表者の地位を従業員に譲って退いた。

その間の昭和六一年三月ころ、前刑で服役中に知り合ったAから「多額の借金があり、暴力団から追込みを受けているので、覚せい剤で一発勝負したい。韓国からの仕入資金二〇〇万円程貸して欲しい。」との申入れを受けたが、「そんなやばいことはやめておけ。」と言ってこれを断ったこと。

2  しかし、その後の同年七月ころ、被告人は、そのころ右××通商の仕事を手伝わせていたAから「自分は癌であと一年位しか生きられない。韓国から覚せい剤を仕入れて日本国内で密売したい。その資金二〇〇万円程出して欲しい。」旨言われ、そのころ××通商の経営が思わしくなかったこともあって、Aの企図した計画に加担して儲けようと考え、同月一九日ころ名古屋市名東区<住所省略>のA方等で、当時××通商の従業員であったBをも加えて話し合い、被告人が覚せい剤の購入資金や経費の調達を、Aが覚せい剤の仕入れと密売を、BがAの補助をするという役割分担を決めたこと。

3  その後、Aが韓国在住の知人Cに電話等でその意を伝えたところ、Cから渡韓するよう求められ、同年八月一一日ころ、被告人、A及びBの三名が渡韓し、被告人は表に出ないで、A、Bの両名が仕入れについての交渉に当たり、右Cの紹介で三名で覚せい剤の卸し元のD(以下「ネタ元」という。)に会い、Aがネタ元と話し合い、その際ネタ元から覚せい剤一キロの価格が一九〇万円であることを知らされた。その後帰国して、Aが電話でネタ元と交渉をしたところ、八月一五日ころ、ネタ元から「代金は全額前払い。取引量は最少でも二キロ以上でないと取引できない。」と言われ、その旨を被告人に伝えた。被告人は、覚せい剤購入資金として四〇〇万円位なら用意できると言ったので、右資金の用意ができ次第、覚せい剤二キログラムを仕入れることにしたこと。

4  そのころ、被告人、A及びBは、覚せい剤の密売方法や密売先などについて話し合い、その際、被告人は小さく売れば足がつき易いので五〇〇グラムか一キログラム単位で密売するのがいいと提案したが、Aは利益を多くするためには一〇〇グラム単位で売ることを主張し、被告人は当初から密売役をAに決めていたので、結局、Aに一任することにした。また、Bが「横浜市内に在住する自分の兄が右翼団体に所属していて、極道の関係者にも顔が広い。」と言ったので、Bの兄を頼って覚せい剤を密売することに決めたこと。

5  同年八月二〇日すぎころ、Aは被告人から四〇〇万円を用意できると聞いて、八月二五日Bと共に渡韓し、覚せい剤二キログラムを買うことにしたが、一日遅れて翌二六日に渡韓した被告人が一キログラム分の一九〇万円しか用意できなかったため、取りあえず、一九〇万円をネタ元に手渡して、三名共に帰国し、約一〇日後の同年九月六日、A、Bが渡韓してネタ元に残代金一九〇万円(うち五〇万円は被告人が、一四〇万円はAが調達した。)を手渡し、結局、二キログラムの代金全額を支払った。ところが、その際、ネタ元から当時の韓国の不穏な治安情勢のため海上封鎖がされているので、覚せい剤の日本への持込みは九月末ころになる予定だと知らされたこと。

6  被告人は覚せい剤の持込みが当初の予定より大幅に遅れていることで、Aらに文句を言うようになり、Aらが何度もそれは海上封鎖のためであると説明しても、被告人は一向に分かろうとせず、やがてはAらが秘かに覚せい剤を入手して売りさばいているのではないかと疑うようになったので、A、Bらは被告人に反感を抱くようになった。その後、同年一〇月一日ころ、A、Bが渡韓してネタ元と話し合い、その際ネタ元から「海上封鎖が解け次第届ける。できれば二キロのほか余分に持って行く。その代金は後払いでいい。」と伝えられたこと。

7  そして、Aらの帰国後間もなく先方から電話連絡があり、これによって、同年一〇月八日、福岡市内の博多駅前のホテルで、A、Bの両名がネタ元と会って同人から覚せい剤約五キログラム(約一キログラム入りのビニール袋五個)を受け取ったが、被告人に対する反感から、相談の上、三キログラム余分に入手したことについては被告人には知らせないことにしたこと。

8  A、Bの両名は、普通乗用自動車で翌九日早朝、当時Bが被告人から借りて居住していた原判示第四の名古屋市内のB方まで右覚せい剤を持ち帰り、約五キログラムのうち約三キログラム分は同人方前付近路上に駐車させた自動車内に隠し、約二キログラム分を同家二階に持って上り、同所で密売のため小分けを始じめ、そのころ電話連絡を受けて同所にやって来た被告人も右約二キログラム分の覚せい剤を現認し、小分けを手伝ったこと。

9  その後、AとBは密売先である横浜市に赴いて、覚せい剤を密売したが、その売れ行きは思わしくなく、売却代金の中から、Aがさきにネタ元に支払うため他から借り入れた分を返済したほかは、A及びBの経費に費やしてしまう始末であった。その後の同年一二月二日、AとBが神戸市内のホテルで右覚せい剤のうち約2.5キログラムを密売しようとしていたところを警察官に職務質問され、検挙されるに至ったこと。

以上の事実が認められる。

そして、右認定した本件の経緯、被告人ら三名の謀議の内容及び被告人の関与の程度、果たした役割等に徴すると、被告人は前記B方において、覚せい剤約二キログラムの所持につきA及びBと共謀したことを認めるに十分であるが、B方前付近路上に駐車中の自動車内にA及びBが隠していた覚せい剤約三キログラムについては、被告人としては全くあずかり知らぬところであるから、A及びBのこの覚せい剤の所持について、被告人に共謀による所持を認めることはできないものといわなければならない。

ところで、原判決は、(一) AとBが被告人に覚せい剤三キログラム分について知らせなかったのは、当時被告人との間で感情的な対立があったから、差し当たりこれを秘匿していたにすぎず、五キログラムの覚せい剤を全部売却した段階で、被告人に事実を話して、売上金を引き渡すつもりであり、現にAとBの両名は被告人に覚せい剤を見せた際には二キログラム分と三キログラム分に分けていたが、その前後においては右を区別することなく、一体として保管し、その中から順次売りさばいており、しかも、BはAの指示で覚せい剤密売の入金や経費の出金状況をキャッシュブックに記帳して後にその収支を被告人に報告するのに備えていたこと、仮に、Aが三キログラム分の代金を自分らの取分とする意図があったとしても、その意思がなかったBを思いのままできる状況にはなかったことなどを指摘して、AとBには覚せい剤二キログラムを超える分について、殊更、被告人を排除するまでの意思はなかったものといえること、(二) 他方、被告人は現実には二キログラムを超える分について認識がなかったとしても、かねがね後払いで覚せい剤が手に入るものなら、これを仕入れたいとの意向を有しており、二キログラムの仕入れは一回限りのものではなく、これを継続して利益を得る意思を有していたことなどを指摘して二キログラムを超える五キログラムの覚せい剤が入手できたとしても、これは被告人において全く予想外のことではなく、これを知らされれば、歓迎こそすれ拒否するとは考えられないことなどを指摘し、被告人に三キログラム分についての認識がなかったとしても、この分をも含め仕入れられた五キログラム全部についての所持の共謀を認めるのが相当であると説示し、被告人について原判示第四の事実のとおり共謀による共同正犯を認定しているのである。しかしながら、右説示は首肯し難い。すなわち、

まず、右(一)の説示について検討するのに、関係証拠によると、

1  前示のとおり、AとBは、同年一〇月八日、福岡市内でネタ元から覚せい剤約五キログラム受け取った後、相談の上、二キログラムを超える分は被告人に秘匿しておくことに決め、翌九日早朝、B方まで車で持ち帰った際、三キログラム分を附近に駐車させた自動車内に隠し、二キログラム分を同家二階に持って上り、電話連絡で同所に来た被告人に対し、二キログラム分のものを見せて、これが買った覚せい剤であると説明し、以後も被告人に対し三キログラム分については秘匿していたこと

2 Aは、当初、捜査段階において「余分のシヤブは、どうせ二キロのシャブを売り尽くしたとしても、甲(被告人)は私達が満足するような分配金はくれないことは分っていましたから、Bにも絶対甲には言うなよと口止めして二人の取り分とするつもりでした。」旨供述していること(昭和六一年一二月一〇日付司法警察員に対する供述調書の謄本)。

3 キャッシュブック及びAの昭和六二年一月二九日付司法警察員に対する供述調書の謄本によると、覚せい剤の密売代金及び売掛け金の一部が記帳されておらず、入金と記帳されているだけで、売上代金と売掛金との区別がつかず、Aの説明では密売した覚せい剤一グラムの価格が二、八〇〇円、三、〇〇〇円、三、五〇〇円、四、〇〇〇円、五、〇〇〇円、六、〇〇〇円、七、〇〇〇円、一万円、二万五、〇〇〇円まであったというのに、売上代金だけを記帳し、密売した覚せい剤の量あるいは一グラムの価格を記帳しておらず、これでは売却した覚せい剤の量が分からない。なかには、密売代金から経費を差し引いて残代金を記帳したものがあったり、覚せい剤の密売とは関係のない入金が記帳されていること、また、キャッシュブックの記帳をみると、経費が非常に多く、記帳された経費については、これを裏付ける資料が添付されていないし、経費はいかようにも記帳できるものであること、さらに、前示の供述調書によると、Aらの本件覚せい剤の保管が極めてずさんであって、紛失したものがあったり、売却に際して覚せい剤を目分量で測ったり、はかりで計量した際でも雑なやり方をしていたこと、仕入れた約五キログラムの覚せい剤の処分状況、収支状況等について、キャッシュブックを見て、あるいは、思い出しながら、供述しているが、殆んど裏付けのないものであり、一応辻つまを合わせるための内容にすぎないことがうかがわれること、Bの捜査官に対する各供述調書を仔細に検討しても、キャッシュブックの記載内容等についての具体的な供述が全くないことなどからすると、キャッシュブックに覚せい剤密売についての収支が正確に記載されているとは到底認められず、後日被告人に報告するのに備えてキャッシュブックに覚せい剤密売の収支状況の明細を正確に記帳していた旨のA、Bの各供述は信用し難いこと

4 Aらによる本件覚せい剤の密売は当初から思うようにいかず、売上金の殆んどを経費に費消してしまう始末であったのに、密売を始めた一〇月一〇日ころから一二月二日神戸市内でAらが検挙されるまでの約二か月の間、AとBは被告人に対し、密売の収支の状況等を全く報告しなかったこと

以上のことが認められる。

以上のことからすると、「五キロの覚せい剤を全部売却した段階で被告人に事実を話すつもりであった」旨のA、Bの各供述はいずれも信用し難い。

つぎに、右(二)の説示について検討するのに、関係証拠によると、

1 被告人の昭和六二年二月二六日付検察官に対する供述調書(一項、一〇項)によると、「去年の八月一五日ころ、半金後払いでシャブが入手できるなら、また、これをうまくさばけて儲けるようになれば、更に、私がシャブの仕入資金を出して仕入れたシャブを更にさばいて儲けたいという気持はその時点でありました。」旨の供述記載があるが、右供述調書のほか被告人、A及びBの捜査官に対する各供述調書を仔細に検討すると、八月一一日ころ、Aがネタ元と初めて会い、覚せい剤の仕入れについて話し合って、ネタ元側の取引条件が判明した時期に、被告人、A、Bの三名が、覚せい剤の仕入、密売等について話し合った際に出た仮定的、希望的なただ単なる話しにすぎないものといえること(被告人の昭和六二年二月二五日付司法警察員に対する供述調書等)。

2 八月一五日ころ、被告人はAから覚せい剤仕入れについてのネタ元からの条件が覚せい剤一キログラムの価格が一九〇万円、代金全額前払い、その取引量も最少二キログラムである旨聞いて、Aの知人Cがネタ元であるならともかく、AはCの紹介で初めてネタ元と会ったのであり、しかも、本件が同人との初めての取引であったことから、右ネタ元との取引条件についてはそれ以上に交渉の余地がないと思っていたこと(被告人の昭和六二年二月二五日付司法警察員に対する供述調書)

3 被告人らにとっては本件が初めての覚せい剤の取引であって、密売の組織はなく、当初Aは覚せい剤一キログラム位を仕入れ、その位なら容易に密売できると思っていたが、ネタ元からの条件で少なくとも、二キログラムを仕入れざるを得ないことになって密売の目途が立たず、苦慮し、八月一五日ころ、密売先について被告人、Bと話し合い、その際、Bが横浜市内にいる自分の兄が右翼団体に所属していて、その関係から極道の関係者にも顔が広いと言ったので、Bの兄を頼って密売することに決めたこと(被告人の昭和六二年二月二三日付司法警察員に対する供述調書)。

4 被告人は覚せい剤購入資金として四〇〇万円位なら調達できると思い、その後金策に努めたが、実際には二四〇万円しか調達できなかったこと

以上のことが認められる。

右の認定の事実のほか前示のような本件覚せい剤密売の状況などからすると、少なくとも一〇月八日当時被告人が前記(二)に記載のような意向、意思を有していたとは考えられず、したがって、また、被告人としては二キログラムを若千上回る程度の覚せい剤ならともかく、Aが代金後払いであるとはいえ、二キログラムを三キログラムも上回る覚せい剤を入手するとは予想もしていなかったものと認めざるを得ないのである。

右のとおりであって、前記原判決の説示には主要な点において首肯し得ないところがあり、採用し難い。

そうすると、被告人がA及びBと共謀の上、法定の除外事由がないのに、営利の目的で二か所において、合計約五キログラムの覚せい剤を所持しいた旨認定した原判決は事実を誤認したものというべきであって、右事実の誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかであるところ、原判決は、これと原判示第一ないし第三の各罪とを刑法四五条前段の併合罪とし一個の刑を科しているから、原判決はその全部につき破棄を免れない。論旨は右の限度において理由がある。

よって、量刑不当の控訴趣意について判断するまでもなく刑訴法三九七条一項、三八二条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書によりさらに次のとおり判決する。

罪となるべき事実は、原判示第一ないし第三の各事実(ただし、原判示第二の事実の五行目の「約三〇メートル」とあるのは「約三六メートル」の誤記と認められるから、訂正して引用する。)のほか、原判示第四の事実に代え、次のとおり新たに認定する。

(当裁判所が新たに認定した罪となるべき事実)

被告人はA及びBと共謀の上、法定の除外事由がないのに、営利の目的で、昭和六一年一〇月九日午前七時ころ、名古屋市千種区<住所省略>右B方においてフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤結晶粉末約二キログラムを所持したものである。

右事実を認定した証拠は、原判決がその判示第四の事実に対応挙示している証拠と同じであるから、これを引用する。(法令の適用)

被告人の原判示第一の所為は、昭和六一年法律六三号(道路交通法の一部を改正する法律)附則三項により同法による改正前の道路交通法一一八条一項一号、六四条に、原判示第二の所為は、被害者ごとに各刑二一一条前段、罰金等臨時措置法三条一項一号に、原判示第三の所為は前記改正前の道路交通法一一九条一項一〇号、七二条一項後段に、前記判示の所為は、刑法六〇条、覚せい剤取締法四一条の二第二項、一項一号、一四条一項にそれぞれ該当するところ、原判示第二の所為は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として犯情の重い久保田健次に対する罪の刑で処断することとし、原判示第一ないし第三の各罪についてはいずれも懲役刑を選択し、前記判示の罪については情状により懲役刑及び罰金刑を併科することとし、原判示の前科があるので同法五六条一項、五七条により、原判示第一ないし第三の各罪の刑及び前記判示の罪の懲役刑にそれぞれ再犯の加重(前記判示の罪の懲役刑については同法一四条の制限に従う。)をし、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により最も重い前記判示の罪の懲役刑に同法一四条の制限内で法定の加重をした刑期及び所定金額の範囲内で後記量刑の理由に基づいて被告人を懲役六年及び罰金一〇〇万円に処し、同法二一条を適用して原審における未決勾留日数中二一〇日を右懲役刑に算入することとし、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、原審及び当審における訴訟費用は、刑訴一八一条一項但書を適用して被告人に負担させないこととする。

なお、前説示のとおり、昭和六二年二月二八日付起訴状及び同年七月七日付訴因変更請求書記載の公訴事実のうち、被告人がA及びBと共謀の上、法定の除外事由がないのに、営利の目的で、公訴事実記載の日時、場所に駐車中の普通乗用自動車内において、約三キログラムの覚せい剤を所持していたことは、これを認めるに足りる証拠がないから、結局右の事実については犯罪の証明がないことに帰するが、前記判示事実と一罪の関係にあるとして起訴されているから、主文において特に無罪の言渡しをしない。

(量刑の理由)

本件は被告人が無免許で普通乗用車を運転して人身事故を起こし、しかもその事故についての報告義務を怠った事案及び外二名と共謀の上、営利の目的で覚せい剤約二キログラム所持した事案であるところ、その罪質、態様殊に覚せい剤所持の犯行は、その量が多量であること、被告人はAの提案によるとはいえ、覚せい剤密売によって利得を得ようとして覚せい剤の購入資金を提供したものであり、覚せい剤の仕入れ、密売に劣らない役割を果たしたこと、Aらによって覚せい剤が密売されて社会に多大な害悪を流したこと、被告人にはこれまで七回懲役刑に処せられた前科があり、本件は最終刑の仮出獄後約一〇か月足らずの間の犯行であることなどに徴すると、その刑責は重いというべきである。

他方、本件はAに誘われて犯行に加わったこと、被告人は提供した本件覚せい剤購入資金、負担した渡韓費用等の回収はおろか何らの利益も得ていないこと、被告人には覚せい剤関係の前科、前歴がないこと、業務上過失傷害の事実については、被害者にも安全確認を怠った点で若千の落度があったこと、被告人は事故当日警察に出頭していること、被害者と示談が成立していること、その他被告人は仮出獄後、一応正業に就いて働いていたことなど被告人に有利な情状も認められる。

これらの諸点を綜合勘案して主文のとおり量刑した次第である。

(裁判長裁判官尾鼻輝次 裁判官岡次郎 裁判官一之瀬健)

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